炭の漆:大分で生まれた漆文字盤
大分から、世界へ

大分の漆をご存じですか?
大分県は、日本一の「おんせん県」として知られています。立ちのぼる湯けむり、雄大な自然、そして古くからの信仰や文化。けれども、漆の産地として知られてきた土地ではありません。
そんな大分を、ひとりの漆芸家が暮らしの場に選びました。
長年身につけてきた漆の技法に、火山の大地や炭の色、鉱物のような質感、大分の風景から得た着想を重ね合わせ、新しい漆の表現が生まれています。
「炭の漆」を手がける職人をご紹介します。その歩みと技、そして漆を通して見える大分の姿をご覧ください。

鬼丸真由美(おにまる まゆみ)
青森県つがる市に生まれ育ち、津軽塗の職人であるお父様のもとで育ちました。20代から、お父様に直接、津軽塗の技法を学び、長年の手仕事を通じて技を身につけてきました。
結婚を機に、ご主人の故郷である大分へ移住。津軽塗を土台にしながら、ほかの伝統技法も取り入れ、独自の表現を築いてきました。
代表的な技法のひとつが、炭を使った技法です。漆を塗った面に炭の粉を蒔き、丁寧に研ぎ出すことで、下の層の色や質感を浮かび上がらせます。
今回のコレクションでは、何層もの色を深く研ぎ出すことよりも、炭がつくる模様と質感を主役にしました。そこに螺鈿を合わせ、手ざわりまで感じられるような上品な仕上がりになっています。
制作の風景









炭を主役に:鬼丸氏の漆の表現
日本の漆工芸では、炭は古くから研ぎや下地づくりのための実用的な材料として使われてきました。やがて職人たちは、まだ乾いていない漆に炭の粒を蒔き、あとから研ぎ出すことで、繊細な質感や奥行きが生まれることに気づきます。津軽塗のような丈夫な地方の漆器では、炭は強さと見た目の豊かさの両方を支える存在になりました。
多くの漆職人にとって、炭は表には見えない下地の材料です。
けれども鬼丸氏は、その役割をまったく新しく捉え直しました。
炭を漆の下に隠すのではなく、表に引き出す。手作業で漆を重ねながら、炭の自然な粒立ち、マットな深み、手ざわりを抑えるのではなく、そのまま生かしています。
鬼丸氏の手にかかると、炭は脇役ではなくなります。作品そのものの「声」になるのです。下地としての炭ではなく、個性としての炭。それが、この漆文字盤の魅力です。
炭の漆コレクション
炭の漆コレクションは、漆芸家・鬼丸真由美氏が手がける漆文字盤のシリーズです。最初のモデルは現在品切れとなっていますが、今後も新しいモデルを加えていく予定です。
津軽塗の技法を独自に再解釈した4つの表現を、天然の炭の粉と手塗りの漆で表しています。深く有機的な黒の質感の奥に、静かな動きと奥行きが感じられます。
インデックス(時字)には本物の貝を使った螺鈿を一つひとつはめ込み、深い黒の文字盤に虹色の光を添えました。
質感と光。受け継がれてきた手仕事と、今の感性が出会って生まれたコレクションです。



